同居人(5) [TSF関連]
放課後。ホームルームが終わるとすぐに皆、めいめいの所属する部へと移動して行った。智夏や相川くんももちろん同じで、相川くんは私に向かって軽く手を上げると、教室を出て行った。
クラスの中で部に入っていない人ってのは意外と少なく、10人ほどしかいない。その人たちも遊びや塾通いで忙しい身だ。あっという間に教室には数人の生徒しか見当たらなくなってしまった。
その中に馬場くんがいた。私も馬場くんに話があるように、向こうもこちらに何か思うところがあるようだ。荷物をまとめると、私の席の方に向かってきた。
「何よ」
「お前が何かいいたそうな顔をしてたからさ。溜め込むのもよくないぜ」
「そりゃどうも・・・じゃあ早速いわせてもらうけど」
私は教室の中を見回した。さっきはもう一人居たような気がしたんだけど、変な気を利かせてくれたのだろうか、今は私たち二人だけになっていた。それを確認すると、早速戦闘を開始した。
「今日は二回もトイレに行ってたりしたよね?二時間目の後と昼休みと。ちょっと多いんじゃない?」
「普通だろ、そんなの。このお前の体がトイレが近いだけなんじゃないのか?」
そんな自覚はないけど、一日二回トイレに行くのはおかしくも何ともないのは分かってる。だけど、状況が状況だけに、いわないわけには行かないのだ。ちょっと自意識過剰かもしれないけど、釘を刺しておかないと、私がすべてを許しちゃっているように思われるもの。
「と、とにかく、トイレは仕方ないと思うけど、必要以上には行かないでよ、そしてあまり見たり触ったりしないように。あと、するときには水を流しながらすること!いいわね?」
「わ、分かった。それにしても水を流しながらするってのはアレだよな。女ってそんなに大きな音がしちゃうもんなんかね?男同士だったら壁もないとこで隣同士なわけだけど、ほとんど音なんか聞こえないぜ」
「そういわれてみれば・・・って、そんなことはどうでもいいの!女の子の場合は、音が出やすいのよ!下の便器も水が張られているから撥ねやすいんだから。とにかく、水を流すのを忘れないように!」
「わ、分かってるっていっただろ。もうちょっとオレを信じてくれよ」
そういうセリフを吐ける奴は責任感のない奴だ――そんな固定観念のある私は、カッなって席を立つと、教室を飛び出してしまった。
「ふう・・・やっちまったか」
軽い溜息をつく洋。芽衣未が出て行って数分してから教室を後にした。
「ふぅ・・・」
ずっと何かに気を遣いながら生活するのは、かなりの精神力を消耗するみたいだ。私は、帰宅するなりさっきの馬場くんとのこともあって、さっさとふて寝を決め込んでしまった。結局目が覚めたのは、相川くんが帰ってきた夕方六時半ごろだった。
「そういえばさ。お前、今日は朝、女子と二人でしゃべってたんだって?」
「え!?」
い、いつの間にそんな情報が・・・誰かに見られていたんだろうけど(ていうか、誰にも見られずにいたなんて思ってなかったけど)。私が誰かを判別できていたのなら、相手が誰かも分かっているのだろう。私たちは同じクラスなのだし。私は観念した。
「う、うん。ちょっと色々あって」
「で、その娘とは付き合っているのか?」
おいおい、まるで智夏みたいじゃないか。相川くんって意外にミーハーなのかも。それにしても、しゃべっただけで「恋人」って断定しようなんて小学生じゃあるまいに。
「い、いや。ちょっと事情があってしゃべっただけの話だよ。その事情ってのはちょっといえないんだけど」
「ふ~ん、確かに聞いた話でも、お前と神奈川さんが仲良くしゃべっているようには見えなかったらしいけど」
何だ、やっぱり相手が『私』だって知ってたんかい。うーむ、こうなったら学校内に話が広まってしまうのも時間の問題であろうな。隠れて二人で会うなんて不可能に近いだろうし、ここは既成事実化した方が賢いかも。
だったら、智夏と相川くんも巻き込んでの二対二の状況に持ち込んだ方がいいかもしれない。とりあえず、智夏はこっちに抱き込んでおかないと。
近いうちに智夏経由で相川くんと接点を持ってもらって紹介してもらおう。とりあえず二対二の状況に持っていきたい。そうすれば私たちも接触しやすいし、変な噂も立ちにくい(智夏を抱き込むのが肝だ)。
(よし、まずはそれだ。あ、そのためには馬場くんと仲直りしなくっちゃ)
「ん?どうかしたのか?珍しくえらくおとなしいじゃないか」
考えにふけっていた私の様子を見て、相川くんが声を掛けてきた。うーん、いかんいかん。せっかく方針も決まったんだ、会話に集中しなくっちゃ。
私は何だか気恥ずかしい気分になりながら、私はこれから先に向けて気合を入れなおしていた。
――第六話につづく
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