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同居人(13) [TSF関連]

 二日目の朝。早めに寝た私だったけど、疲れていたのか、昨日ほどは早い時間に目が覚めなかった。けど、それは周りのみんなも同じ。ぐっすると眠っているようだ。やっぱり、みんな、それなりに疲れているみたいだ。

 目を覚めさせるために、顔を洗いに洗面所に向かう。と、衛くんだ。彼も同じ目的だったらしく、すでにそこにいて、蛇口をひねっていた。

「お、おはよう。変なとこで会うな。どうだ?体の方は。筋肉痛にはなってないか?」

「ん・・・ああ、ちょっと太ももが張ってるかな。まあ、大丈夫」

 いわれてみて、初めて自分の状態に気付く。どうやら、左足のふとももとふくらはぎ、そして右手の二の腕辺りが少し張っているようだ。どうしてそこなんだかはよく分からないけど、バランスがおかしいんだろうな、とは思う。

「そっか。でも、今日は一日あるからな。あまり無理はするなよ」

「心配ないって。そろそろコツも掴んできたし、昨日みたいにバタバタはしないさ」

 これは私の希望。実際には上手くなったらなったで、次のステップがあるのだから。衛くんの域まで達すればいいのだろうけど、一回ではさすがに無理っぽい。

「ところで、芽衣未ちゃんは元気にやってるか?あの娘も苦労しているみたいだったけど」

 ここで、私は複雑な気分になってしまう。「苦労しているみたいだった」ということは、全く気にかけていないことだから、それはいい。けど、「元気にやってるか?」というのはちょっと残念な台詞に思える。仮にも付き合っているんだったら、そういうのは本人に聞くべきなんじゃない?少なくとも私だったらそうするけど、男の人ってみんなそうなのかな?

「うん。大丈夫みたいだったけど。今朝は会ってないから、こっちと同じに筋肉痛にはなっているかどうかは知らないよ」

 思わず口をついて出るつっけんどんな返事。けれど、この場はそれが正しい対応の仕方だろう。私がまだ馬場くんに会っていないのは事実だし、仮に知っていたとしても、ここでしゃべってしまうのはどうかとも思う。衛くんにしたら、私と馬場くんの関係を変な風に想像しかねないだろうし。

「そっか。じゃあ朝飯の時に直接聞くか」

「そうしろよ。どうせすぐに会えるんだし」

「ああ、そうするよ。じゃな」

 顔をタオルで拭いつつ、衛くんは退場していった。私もすぐに顔を洗うことにする。廊下の寒さと今の会話で、半分くらい目が覚めてしまったけど。

 顔を洗って頭はすっきりはしたけど、さっきの会話の内容が、妙に頭にこびりついて、結局あまりいい気分にはなれなかった。

 さて、長いレッスンが始まった。所詮は遊び。だけれども、私と馬場くんにしたら、せめて人並み程度に――そういったプレッシャーのかかる一日の始まりだ。私は緊張しながら一歩を踏み出した。

「うわっ!」

 バランスを崩して、私は背中から落ちてしまう。頭を打たないように細心の注意を払う。何度も転倒して学んだ転び方だ。

「ふう。でも、かなり見えてきた。5メートルは進めるようになったし」

 正直、よくここまで上達したというのが感想だ。けど、周りのみんなとはさらに距離を開けられているような気がする。あ、もちろん、私以上にダメな人もいるのだけど。でもそれって、何のスポーツをやらせてもダメそうな奴じゃん。それらと同列に扱われているのが正直情けない。

「よし、じゃあ次は10メートル目標だ!」

 で、結局ゆっくりであれば、こけないで滑れるようにはなった。もちろん、傾斜がゆるいところ限定の話だけど。でも、全く滑れない、って状態から考えると随分な進歩だ。みんなには追いつけなかったけど、個人的には満足だ。

「どうだった、そっちは?」

「ん。まあ、何とかね。若干、前向きに体重をかけたらいい感じになったよ」

 着替えを終えた私は、待ち合わせしていた馬場くんと廊下の一角でそんな話をしていた。

「前向きって、それって結構加速がついて危ないんじゃないの?」

「ああ。けど、昨日も感じたけど、女の子って重心が下で、しかもお尻が重いから、後ろ気味なんだよ。自分の感覚に近くするためには、そうするしかなかったんだ。けど、そうしたら結構上手く行くんだよな。元々が男だから、恐怖心を克服できたのかも大きいみたいだね」

 なるほど。そうかもしれない。私自身、今日は後ろ向きに倒れてばかりだったもの。けど、前向きに倒れるなんて考えられない。要は心構えの問題なんだろうけど、ちょっと怖い気がする。明日は少しだけ前に重心を置いてやってみようっと。

「さて。そろそろメシだろ?行こうぜ」

「う、うん」

 ぱっと笑いかけて、私を誘う馬場くんに、見えているのは自分の顔なんだけど、少し照れてしまう。何だろ、変な気分だ。ちょっとずつではあるけど、自分の顔が自分のものではないような感覚になってきているのかもしれない。

「よう。やっときたか。で、どうだったんだよ?」

 宴会場ではすでに衛くんと智夏が座って待っていた。私も衛くんの横に腰を下ろす。

「うん。かなりましにはなったよ。転ぶ回数もかなり減ったし」

「そうか。神奈川さんのほうはどうだい?」

「え?あ、うん。やっと前へ進むようにはなったかな。最後の方はちょっと脚が疲れてきたみたいだけど」

「ふうん、そっか。二人とも、結構上達したんだなあ。この分だったら、明日は一緒に滑れるかな」

 ふふ、と不敵な笑みを浮かべながら衛くんがからかってくる。一緒に滑るったって、衛くんが私たちのいる初心者コースに来てくれないと話にならない。それじゃあ、きっと衛くん自身が楽しめないし。

「うーん、できないことはないけど、ちょっと厳しいかな。まあ、無理に付き合ってもらう必要はないよ」

「ふうん、そっか。そうかもしれないな。じゃあ、二人には遊ぶってよりも真剣に練習してもらおうか」

「だね。もうちょっと格好がつくぐらいまでにはなりたいし」

 変に負けず嫌いなところがある私はそう答えていた。馬場くんは特にそんなかたくなではないようだったけど。でも、衛くんと一緒に滑りたいってわけじゃないので、特に口を挟むこともなかったみたい。そんな三人を、智夏がまぶしげな目で見つめていることに私は気付かなかった。

「ねえ。やっぱり明日は遊ぼうよ。最終日だし、最後は楽しんだ方がいいと思うなあ」

 突然、口を開いた智夏にみんな注目する。いきなりじっと見つめられて、ちょっと照れた顔を見せた智夏だったけど、続いて発言をする。

「周りが女子ばっかりだったから、ちょっと男子と滑ってみたかったのよね。相川君は芽衣未がいるから譲るとして、私は馬場君とがいいかな」

「うん?オレは構わないけど・・・二人はどうだい?」

 あっさりと同意した衛くんに対し、私と馬場くんは顔を見合わせた。私たちには、ルームメイト同士の組み合わせ。だけど、外見上は男女カップルなのだ。衛くんと馬場くんのほうはいいとして、こっちは私よりも滑りの上手い智夏との組み合わせなのだ。馬場くんの立場がもっと悪くならないだろうか。

 私があたふたとそんなことを考えていると、馬場くんがふっと柔らかく微笑んだ。あ、この顔を見るといつも安心するんだ。

「うん、いいよ。じゃあ明日はその組み合わせで滑ろう」

 一転して、遊びの方を選択した馬場くん。もしかすると、彼は最初からそのつもりがあったのかもしれない。だけど、私の意志が違ったから、それに同調していただけなのかも。うーん、相手は私なんだから、あまり変な気を遣わなくたっていいのに。

 四人中三人が同意しているのに、私だけ逆らうわけには行かないじゃないの。私もみんなの意見に乗ることにした。

「よし、決まりだな。明日は自由行動で。集合はどこにする?」

 翌日。今日は最終日なので、インストラクターも希望者にだけ教えるということで、基本的には自由だ。私たちは打ち合わせどおり、リフト乗り場で落ち合って(あ、もちろん初心者コースだ)、早速二組に分かれて滑り始めた。

 若干進歩が早かった馬場くんたちのほうが先行して先に行ってしまう。私が足を引っ張るこっちのほうは超スローペースの滑りになった。

「おおっと、大丈夫?はい、手を出して」

「あ、ありがと」

 横転した私に対し、手を差し伸べてくれる智夏。私も素直にその好意に甘えて手をとって立ち上がる。

「ところで、今日はこの組み合わせでよかったのかな?芽衣未との方がよかったんじゃない?」

「え・・・?」

 智夏のいわんとしていることがイマイチ飲み込めずに、私はすぐに返事ができなかった。

「いや、だからさ。馬場君が芽衣未と相川君をくっつけようとしているのを知ってるからこうしたけど、馬場君自身としては、芽衣未と組みたかったんじゃないかって思えて」

「え?え?」

 趣旨がよく分からない私は、智夏の意見にどう答えていいものか分からなかった。っていうか、私自身にも消化しきれていない話題なのだ。簡単に答えられるような話題じゃない。

「答えられない?ふうん、そうかもね。まあ、悩みごとがあったら相談には応じてあげるから」

「は、はあ。ありがとう」

「どうしてそんなこというのか分からない、って顔してるわね。けど、これは覚えておいて。私と芽衣未は親友なの。その芽衣未にとって一番いい方向に持っていくのが私の勤めだと思ってる。だから、芽衣未が馬場君のほうに興味を持ってるなら、そうなるようにするだけよ」

「そ、そうなの?」

 智夏の言葉に涙が出そうになる。けど、智夏がいった話も気になって、それはそれで聞き捨てならない話だ。私が馬場くんのことを?いや、この場合は逆か?馬場くんが私のことを?

「そうじゃないのかなあ。今はどっちつかずの感じだけど。馬場君自身はどう思うの?そんな感じはしない?」

「い、いや。考えたことはないけど。いい人だなあって思うことはあっても、恋人としてはどうかなって感じじゃない?家族みたいな」

「ふうん。そうかもしれないわね。とにかく、二人でいるととっても自然に見えるのよね。そっか、家族か」

 私は今現在、本当に思っていることを彼女に伝えてみる。けど、智夏は納得している風でもなかった。まだ私と馬場くんの間を誤解しているのだろうか。けど、これは周りがどう思おうと、私たち自身の心の問題なんだから。智夏の気持ちはうれしいけど、他人にとやかくされる覚えはない。

「納得行ってないみたいだけど、事実は事実なんだよ。今はまだ芽衣未のことは友達以上には思ってない。おれ個人としては衛と彼女をくっつけるのに全力を尽くすだけさ。だから君も協力してくれ」

「・・・分かった。あんたがそういうなら、私も手伝うよ」

「感謝するよ。じゃあ、滑ろうか」

 私と智夏は残りの時間、じっくりと滑った。そのおかげか、私の腕前はかなりの上達を見せた。何とか智夏と同じぐらいのレベルまで滑れるようになったのだから上出来だろう。

 そう思っていたら、馬場くんはもっと上手くなっていたみたいだ。直接見たわけじゃないので比較はできないけど。まあいいや。私は私なんだし。上達して帰れた、それでいいじゃない。

「よし。じゃあ帰ろうか」

 帰りの飛行機では、概ねみんな爆睡してしまっていた。私の横でも馬場くんが眠っている。

(何だ、もう少ししゃべりたかったのにな・・・まあ、帰ってからでもいいか)

 そんなことを考えているうちに、気が付けば私も眠ってしまっていた。そこで何か楽しい夢を見ていたようなのだけど、結局思い出せなかった。楽しいって記憶だけ残ってるから、かなりハッピーな夢だったんだろう。

 気が付けば帰り着いていた。うーん、明日はゆっくり休んで、明日からまたがんばるか!変な気合を入れる私であった。

――第十四話へつづく


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