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同居人(14) [TSF関連]

 修学旅行から一週間が経ち、帰った頃はたっぷりとあったリゾート気分も今はすっかり冷めてしまっていた。

 帰ってからも衛くんと馬場くんの間に特に大きな進展はなく、私の中でもどかしさだけが募っていっていた。けど、馬場くんを弁護するなら、もし私が自分の体だったら、どこまでやれたかと思うと、馬場くんなりにかなりよくやってくれている、という気がしないでもないかな。

 いずれにせよ、神奈川芽衣未と相川衛という二人の男女の仲には、あまり大きな進展が見られないまま、時間だけが過ぎていっていた。けれど、二人の間が決定的に引き裂かれる、ということもない。私と馬場くんが姉弟みたいだというのと同じで(どっちが上なんだかは知らないけど)、馬場くんと衛くんとの関係も元と同じ友達みたいな感覚なのかもしれない。

「お、待ったか?」

「ううん、ちょっと智夏と話してたからね。今来たところだよ」

 放課後、私と馬場くんは待ち合わせをして、一緒に帰ることになっていた。世間ではこんな行動をするからこそ勘違いされているみたいだけど、当人としては全然そんな感覚はなくって、家族的な感覚が存在しているに過ぎないし、もし、衛くんや智夏が帰宅部だったらそれとも一緒に帰るだけの話で、たまたま二人だけが帰宅部だから、こうして一緒にいるだけなんだけど。

「そっか。じゃあ帰ろうか」

 私は馬場くんと情報を交換しながら家路についていた。

 馬場くんによると、今度の週末にも衛くんとのデートを予定しているらしい。相変わらず、男同士の感覚が抜けないらしくて、妙にやりにくいって馬場くんはいってる。そりゃそうだろうな。私と智夏でデートすることになったとしたら、同じような気分になるだろうし。

「あ、雨だ・・・!」

 ぽつっとおでこに何かが当たったかと思うと、次は頭の上にも。どうやら季節外れの夕立らしい。あれよあれよという間に、ものすごい量の雨が降り注いできた。

「こ、こりゃ・・・いな・・・!は、・・・るぞ!」

「う、うん!」

 しゃべる声もはっきりと届かないほどの雨。私と馬場くんは屋根のあるところを目指し、駆け出し始めた。けれど、この辺りは何もない空地で、ここを抜けて住宅地に出なければ雨宿りはできない。私たちは靴が汚れることなど、気にかけることもできずに空地の出口を目指した。

 その時――事件は起こった。

 突然頭上で起こった爆発的な光。それが目に入った瞬間、私の全身に大きな衝撃が走った。私は有無をいわせずに意識を持っていかれてしまっていた。

「ううう・・・」

 次に気が付いた時には、雨はすっかり上がってしまっていた。けど、私の顔は地面に溜まった雨水でしとどに濡れてしまっている。その顔を手で拭き取ろうとして、私は違和感に気が付いた。

「え・・・?この感触は・・・!」

 すっかり慣れたはずのがさっとした手触りとは違って、ちょっとつるんとしている肌・・・これってもしかして・・・私が反射的に隣を見ると、そこには馬場くんの姿が!

「ば、馬場くん!ってことはもしかして――!ちょ、ちょっと起きてよ、馬場くんったら!」

「つまり、元に戻ったってことだな。多分、さっき雷に打たれたショックだ」

「そうみたい。あ、体は大丈夫?」

 もう自分の体でもないのに、思わずそんな心配の言葉が出てしまう。私の方はというと、まだしびれた感じは残っているけど、体は無事みたいな感じだ。馬場くんも同じらしく、しばらく手や首を動かした後、「大丈夫みたいだ」と教えてくれた。

「これはおれの勝手な想像だけど。おれたちの体を元に戻そうとするのに、雷のほとんど全部のエネルギーを使ったんじゃないのかな。だから怪我一つなく助かったんだと思う」

「そっか、そうかもね。そういわれたら階段から落ちた時も、それほどひどい怪我しなかったよね。あれも同じ理屈なんだろうな」

「ああ。ポンポンと簡単に体なんかが入れ替わっちまったら、そこら中でそんな話が出てくるだろうからね。そうならないってのは、これがかなりの偶然だってことだ」

「うん。それが運がいいか悪いかは別としてね」

 あはは、と思わず二人して笑ってしまう。そう、この「事件」は私たちにとってはどんな事件だったのか。振り返ってみれば、あまり嫌な思い出が出てこない。衛くんともお近付きになれたし、私にとってはいい方向だったんじゃないかな、ってまじめにそう思う。

「うわ、服もびしょぬれになってるよ。とりあえず、帰ろうか、自分のうちに」

「あ、うん!」

 雷で全てのエネルギーを使い果たしたのか、雲はすでに去り、柔らかな日差しが注いできている。私たちは冷え切った体を温めるべく、家に帰ることになった。そう、文字通り自分の家に。

――第十五話へつづく


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