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同居人(12) [TSF関連]

「む、むむう・・・なんでこんなに苦しいんだ・・・?」

 朝のまどろみの中、私は息苦しさに気付き、目を開けて今の状況を確認した。

「って、誰か乗ってんじゃないか!どうりで苦しいはずだよ!」

 私の上に他の男子が乗っかっていることに気付いた私は、そいつを押しのけ、上半身を上げた。横を見ると、隣で寝ていた上島くんだ。そうか、こいつの寝相が悪いんで、私の上に・・・うーむ、男子に乗られたとは、乙女の一生の不覚・・・!

「トイレトイレ・・・」

 この体になってから、毎朝困るのがこの「朝立ち」なのだ。時間を置くと回復はするのだけど・・・。どうして目が覚めると立っているんだろう?夜のどっかの時点で立つのか、はたまた朝起きる直前なのか。男の生理も面白いっちゃあ、面白い。

「ふう。それにしても寒い・・・!」

 北海道の朝は、やはり関東とはまるで違う。気温にして十度ほど違う感じだ。体感だともっと。今からスキーをしようってんだから、それも無理はないけど。

「よう、おはよう」

「あ、おはよう。よく眠れた?」

 途中で会った他のクラスの男子と挨拶を交わす。この時間、女子ももう起きて準備をしているはずだ。同じ時間に集合となれば、身支度に時間のかかる女子の方が先に起きなきゃいけない。他の男子はほとんど寝ているけど、女子はそろそろ動き始めている頃だ。

「さ、こっちも準備をしておくか!」

 いよいよ始まるメインイベントを前に、私も少しばかりテンションが上がっていた。ってか、この体になってから、朝が本当に強くなった自覚がある。やっぱり、低血圧だと朝はしんどいものね。馬場くんも今頃はその苦労を分かっているはずだな。

「おはよー」

「おはようっす」

 朝食を食べるために、宴会場に次々と生徒が集まってくる。私も会場に着くやいなや、いつもの顔を捜し始めた。

「あ、おはよう」

「おう、早いな。お前にしては珍しい。もしや、昨日は眠れなかったとか?」

 いきなりからかってくる衛くん。そんなに馬場くんって朝が遅いイメージなんだろうか。ううむ、そういえば毎朝起こしてもらってるものな。だけど、言い訳をさせてもらえば、そっちは朝練があるから起きる時間に時差があるだけの話で、こっちが寝坊しているわけじゃないんだけどなあ。

「周りはうるさかったけど、結構早く寝たよ。そっちは?」

「ま、同じだな。バカ話に最初だけ付き合って、あとはすぐに寝たよ」

 どこも同じみたいだね。女子だとバカ話ってよりは、男の子との恋愛とか、誰が好きとか嫌いとか、あいつとあいつが怪しいとか、そんな話になってしまいがちだ。そんな話ができなかったのは残念だけど、きっと私たちのことも噂に上ったはずだ。馬場くん、ボロを出してなきゃいいけど。まあ、智夏がいるから、あいつが仕切るか。

「あ、おはよう。早いね」

 少しあって、ようやく馬場くんと智夏の登場だ。女の子としての準備に手間取ったのが見え見えなので笑える。智夏はそれに付き合っていてくれたのだろう。私は親友のありがたさをもろに感じていた。

「どうだった、女子の部屋は、盛り上がってた?」

「どうなんだろう。女子が集まればいつもあんな感じになっちゃうんだよね。私にとっては、いい情報収集の場なんだけど」

 智夏が概略を答える。ふーむ、やはりそんな展開になってたか。結局、女同士の中では気になるのはそっち系の話なんだよなあ。この間まで私には縁のないはずだったのに、当事者になってしまうと、どうしていいかちょっと迷ってしまう。おっと、今は女子じゃないから、巻き込まれることはないか。

「ふうーん。男子の方は何人かで暴れまくって。気が付いたらみんなバタンキューだったよ。これもいつもの展開だね」

「ああ、うちもそんな感じだったな。オレはさっさと寝ちまったが」

 男子と女子、どっちにしても、特に変わったことはなかった、というのが正直な感想のようだ。何事もなかったと聞いてほっとする。みんな、今日のスキーに気が向いてしまっているのだろう。私もそうだし。

 早速移動開始。バスで目的地のニセコのスキー場へと向かう。着くのは昼前だから、今日は午後の数時間だけになっちゃうみたいだ。で、明日は終日、明後日は午前だけ滑って、帰る事になる。結構強行スケジュールだけど、まあ、楽しければいいかな。

「よっし。早速滑るか!」

 なんて気合を入れつつ、おどおどしながら、配られたスキーウェアに着替える。中には自分のものを持ってきたいという人もいたけど、一般客との差別化ができないとの理由であっさりと却下されていた。まあ、それは当然だよな。それに、あんなものを持ってココまで来るなんてちょっとムリだ。

 実のとこ、私はスキーなんて生まれて初めてだ。衛くんにはちょっとだけ(本人談)経験があるようだけど、智夏にしても馬場くんにしても初めてだという話だ。だから、私が滑れなかったとしても、特に怪しまれることはない。

 そんなこんなで、インストラクターに続いて練習開始。最初は立つだけでも一苦労で、みんなバタバタとしりもちをついていた。いや、私も例外じゃないんだけど。

「ふぃ・・・結構大変だ、これは」

 私は元々、運動神経はいい方じゃないって自覚がある。なので、今回も自信があったわけじゃない。けれど、立つのにも苦労するほどとは思わなかった。滑り始めたら大変、って思っちゃうと勝手にお尻から落ちてしまう。

 最初はそれでよかった。周りもみんな同じようなものだったから。けど、さすがは男子。飲み込みが早い。私がバタバタやっているうちに、どんどんときっちりと段階を踏んで行ってしまう。私も次第にあせり始めた。

「馬場くんの方はどうなのかな・・・?」

 ふと女子が練習をしている方を見ると、やはりみんな苦労はしているみたいだ。さすがに女子の方が成長が遅いらしい。私もあっちだったら目立たなかったのに!

 で、当の馬場くんはというと――やっぱり苦労していた。彼自身はそこそこの運動神経の持ち主なんだけど、体の方がついていっていないみたい。私もこの体になって分かったことだけど、重心の位置からして全然違ってる。女の子は背が低いためか、お尻が大きいためか、重心が下の方にあるんだけど、男子はかなり上、胸か肩辺りに重心がある。その意味ではスキーは女子の方が向いているのかもしれない。

(でも、慣れなきゃどっちでも一緒なんだよなあ)

 失敗を繰り返しているうちに、ようやく立てるようにはなってきた。男子の場合、ある程度無理が効くというのか、バランスを崩しかけたときにも体の強さで何とか踏ん張れたりできる。私もようやく第一段階を突破できたみたい。

 だけど、その頃には他の男子はすっかり様になるようになってしまっていた。私と数人の男子だけが、別の場所で立つ練習と、止まる練習をしていると、聞き慣れた声が。

「よう。結構苦労しているみたいだな。じゃ、お先!」

 衛くんだ。今回で三度目になるというだけに、見事な滑りで、あっという間に私の視界から消えていく。さすが運動部、元々の出来が違うものね。ま、あれと比べるのは酷だ。私は私で地道にやっていくさ。

 その日は結局、そこまでで時間切れになってしまった。結局滑るまではいかなかったなあ。情けないやら悲しいやら。

「ふう、疲れたぜ。早いとこ、ひとっ風呂浴びたいところだよな!」

 坂口くんがそんなことをいう。みんな、大体同じ思いのようで、うんうんと頷いている。そうだなあ、私も体が冷えているのと、ちょっと汗もかいてしまったし。ご飯が終わったら、早速お風呂に行こうっと。

 食事中は、どうしたって今日のスキーに関する話題になる。全然見かけなかったけど、智夏も結構上手くこなしていたらしい。慣れない体で苦労している馬場くんを尻目に、ボーゲンぐらいは軽くこなせるほどになったって聞いた。ええ、ええ。私にしても馬場くんにしても、どうにか立つことができるってぐらいまでしかいかなかったですとも。くそう、明日にはきっと――

 で、衛くんはもう中級者コースに挑もうかという状態らしい。うーん、どんどんと差を開けられているなあ。一緒に滑って――なんて考えていたんだけど、全然追いつけそうもないや。っていうか、今日明日でそんなところまでいけるとは到底思えない。

「どっちにしても今日は疲れたよ。明日、筋肉痛になってなきゃいいけど・・・」

「だよな。オレだって普段使い慣れていない筋肉を使ってるから、明日はどうなるか分からないぜ?運動してないお前らだったらなおさらだろうな」

 全然前へは進んでいない私たちだけど、こけたり立ったりするのに、結構な筋力を使っている。明日にはどうなっているか、ちょっと心配だよ。馬場くんもそんな表情をしている。

「やっぱ、慣れない体だと難しいよな。おれたちも自分の体だったら、もうちょっとましだったろうけどな」

「そうよね。ふたりともスポーツマンって柄じゃないし。ちょっとずつ慣れていけばいいんじゃないかな。明日には滑れるようになりたいけど」

「あはは、だよな。ようやくバランスのとり方が分かってきたんだよな。明日には何とかなりそうだよ」

「じゃ、私こっちだから」

 違うクラスの衛くんと別れ、智夏もいつの間にかいなくなって、二人で歩きながら明日の抱負を語る。同じクラスではあるけど、顔もロクに知らない男子との共同生活、遠い異郷の地、そしていまだに慣れない体。それらを共有でき、話題にできる唯一の存在。馬場くんは私の中での立場はそんなものになっていた。秘密を共有するというよりも、あらゆる隠し事をぶちまけられる、いつの間にかそんな感覚にすり替えられてしまっていた。

(これって恋なのかもね。いや、家族みたいな感じかも。よく分かんない)

 頭の上では衛くんのことを考えながら、足元では馬場くんが支えてくれている。そんな雰囲気なのだ。けど、頭の中に浮かぶ馬場くんイメージは自分の姿なんだよね。うーむ、何だか気持ち悪いかも・・・。

 そんな変なことを考えつつ、その日は騒ぐことなく、私は泥のように眠ってしまっていた。

――第十三話へつづく


完了! [TSF関連]

同居人、何とか書き終えました。
実は先行して書いているので、もう少し先があります。
順次公開していきますのでお楽しみに。
全国十数人ほどの皆様へ(笑


同居人(11) [TSF関連]


 試験も終わり、平和な時間が流れた。

 結果は、というと。私の方は若干の問題はあったものの、いつもの自分を考えるとかなりな成績。馬場くんにしてみれば、少し調子落ちかなって結果だけど、面目は保ったって感じだ。

 もちろん、私を教えた立場の馬場くんに関しては私よりも結果は上だった。こちらも師匠としての面目は果たした形だ。

 試験が終わって、部活が本格的に再開してきているので、中々相手してもらえなかったけど、「私」は衛くんと何度か遊びに行ったりしている。

 馬場くんから聞いた話によると、やっと衛くんとも打ち解けてきたようだ。けど、元々が友人同士だった二人だし、共通の話題を見つけるのは簡単だ。二人の関係はあくまでもそういったアプローチによるもので、神奈川芽衣未と相川衛っていう男女の接近を意味するものじゃない気がする。どっちにしても、私の心は芽衣未の体の中にないのだから、正確な意味での「交際」にはならない。

 どっちにしても早く元に戻らなきゃ始まらない。一月以上経っても元に戻る気配がなく、私は(馬場くんも含めて)焦りの気持ちが高まってきていた。

「よーし。席順はこれでいいな?まあ、不満があったら個々に交渉してくれ。ただし、他のクラスの奴と変わるのはなしだ」

 「ええ~!?」という不満の声が教室内をこだまする。何をしているのかというと。来週に控えた修学旅行の機内の席順を決めていたのだ。当たり前のように出席番号順で先生が決めた席では、クラスの違う衛くんはもちろんのこと、馬場くんとも離れ離れになってしまっていた。まあ、「交渉しろ」ってお墨付きももらったし、こんな決め事は無意味なものだろうけどさ。

 とにかく、クラスをまたいじゃいけないって話なので、衛くんとご一緒するのは私にしても、馬場くんにしても悪かろうから、組み合わせとしては馬場くんと智夏、それか、私と馬場くん。私と智夏って選択肢は、今の状況じゃ、ちょっと考えられない。中身としてはルームメイト同士でいいんだけど、外見上は男と女なんだから。

 ホームルーム終了後、馬場くんにこの話をしたら、彼も同じ意見だったみたいだ。ただ、馬場くんとしてはどうせ部屋で智夏とは一緒になるのだから、移動中ぐらいは別の相手と組みたいようだ。なるほど。そういわれてみれば確かにそうだ。

「よし、じゃあ、私と一緒に行く?」

「あ、ああ。そうするか。って、この顔も見飽きたと思うけど」

 柔らかく微笑む馬場くん。へえ、私ってこんな顔もできるんだ。自分でいうのも何だけど、結構チャーミングじゃないの。今度元に戻ったら早速使ってみようっと。

 この時、私にしても馬場くんにしても、私たち二人が同席することと、智夏と馬場くんがそうするのとで、意味合い的には何の違いもないことに全く気付いていなかった。それが周囲にどんなイメージを持たれるのかも。

 時間はあっという間に過ぎ去り、いよいよ修学旅行当日。直前には体調を崩して休む人もいたんだけど、この修学旅行には何とか間に合ったみたい。もちろん、私たちもちゃんと列に並んでいる。

 かなり待たされてから、ようやく機内に到着し、みんな先を争うようにして乗り込む。席が決まってるというのに、みんなテンション上がってるなあ。

「よーし、じゃあ点呼を取るぞ。浅田」

「はい」

 すでにみんな、思い思いの相手を選んで席についている。仲のいい同姓の友人とペア、もしくはカルテットを組む者がほとんどだけど、中には恋人同士なのだろう、男女の組み合わせも見られた。

 その珍しい一つに私と馬場くんが含まれているわけだ。しかもだ。私たちは世間的にはそうだと見られているにせよ、実質的には恋人でもなんでもないのだ。ちょっと判断を間違えたかな、と思ったがもう間に合わない。ほとんど全ての席は埋まってしまっている。空いているのは先生の横ぐらいなものだ。仕方なく、という感じで私たちは隣同士に座った。

 二人で隣同士といっても、毎日顔をつき合わせているわけで。大した盛り上がりもないままに、馬場くんとのとりとめのない会話を楽しんだ。何せ、周囲の目(耳か)があるんで、突っ込んだ会話ができない。それでもこの前の中間試験の結果の話になると、馬場くんへの感謝の気持ちが急に盛り上がってきて、私の心も少し蕩けさせられるのだった。ううむ、いかんなあ。私の本命は衛くんなのに。こんなところ、彼に見られたら、やっぱり勘違いされるんじゃないだろうか。

 そう思っても、飛行機の中では電車のように自由に動き回ることなんてできない。必然的に馬場くんとの話に終始した。生まれて初めての飛行機に、馬場くんは妙に興奮しているようで、いつもは冷静な印象のある彼も、かなりのハイテンションだった。いつもはしゃべらないことまでペラペラとよくしゃべってくれる。

 おかげで今の馬場くんと衛くんの「お付き合い」の近況もよく理解できた。話を総合すると、二人の関係はそこそこうまく行っているが、それ以上には中々進展しないらしい。あまり自分からモーションをかけられない自分自身をかなり馬場くんは責めていたので、私はちょっと心を打たれてしまった。やっぱこいつ、かなりいい奴だ。

 改めて馬場くんを見直しつつ、私の心はすでに北海道に飛んでいた。そしてほどなく飛行機も北海道の地に降り立つ。

 千歳空港に降り立った私たちは、待ち構えていたバスに乗り込み、早速移動を開始した。本日の予定は昼食を済ませた後、札幌市内を観光するというものだ。

「うわあ、もう雪がちらほら見えるんだ・・・まだ11月なのに」

 はしゃぐ私の顔を見て微笑む馬場くん。自分の顔を見て何が楽しいのか知らないけど、きっと私の子供っぽい反応が面白いのだろう。ふん、どうせ私は子供ですよ!

 お約束の時計台など、数箇所観光を済ませた後、いよいよ今日宿泊予定のホテルに到着した。一旦部屋に荷物を持ち込んだ後、宴会場に集まって夕食、ということらしい。ここでもあいまいな席順が決められているのだけど、そんなものを守る人はいない。みんな、思い思いの場所に移動していく。今回はクラスの壁など存在しない。私は馬場くんと智夏とそして衛くんの四人で固まって着席した。

 私と馬場くんで衛くんを左右に囲むような形で座る。馬場くんの逆隣には智夏が座っており、男子二人、女子二人という並びには何もおかしなところはないはずだ。

「それにしてもさあ、二人は結構サマになってきたよね。正直話、最初は無理だって思ってたんだけど」

 智夏がぶっちゃけた話をしてくれる。なるほど。「こいつらどうせくっつかないだろう」なんて思っていたわけか。それでも、「サマになってきた」というのは私にとってもうれしい発言だ。中身はともかくとして、私と衛くんが付き合っているという事実が世間に浸透しているってことだもの。

「そうだよな。紹介したおれたちとしても喜ばしいよ」

 すかさず私も同調する。苦笑いめいた表情を私に向ける二人。話によればまだまだって話なので、ここはその気になってもらわねば。

「そう見えるか?自分ではよく分からないけど、何が変わって見えるんだ?」

 う・・・本質的な質問を・・・。そんな聞かれ方したって、自分の感覚なんて、そんなにうまく表現できるわけないじゃないの。元々の発言が私じゃないのに、あとでしゃべったばっかりに、私が聞かれる羽目になってしまった。衛くんにすれば、同じ男子である馬場くん(中身は私)の方が聞きやすかったのかもしれないけど。

「そ、それは、あれだ。何か打ち解けたってオーラみたいなものも見えるし」

 ホラね。漠然とした答えしかできない。しかも、事実に即した答えでもなかったりする。オーラなんか見えるわけないってのよ。でも、客観的に見て、二人が接近してきているのは間違いないわけだし、変なことをいっているつもりもない。

「ふうん。そんなもんか?自分では全然自覚ないけどな」

 また寂しいこといってくれるじゃないの。それは相手の態度にもあるから仕方ないのだろうけど。いくらこっちが嫌がっていても、相手がラブラブ光線を発していれば周りからは恋人同士と見られるものだ。それが二人の場合、馬場くんが積極的には動いていないんで、こうしてずっと一緒に行動しているから一応、友達以上には見られているだろうけど、恋人までとなると少し疑問だ。

実際問題、中身としては馬場くんと衛くんっていう男子同士なんだから。例えば、私と智夏、つまり世間的には馬場くんと智夏ってことになるけど、二人が恋人同士だ、なんて噂が立ったとしても、私は自信を持って笑い飛ばせるに違いない。

 何がいいたいのかというと、結局は私と衛くんの相性が悪いってことじゃなく、ちゃんと中身が男子と女子でなければ正確な意味での恋人同士にはならないってことなのだ。こればっかりは馬場くんがいくら努力してくれても埋められるものじゃない。早いところ元に戻らなくっちゃ。

 夕食時間が終わり、先生の注意事項を聞かされた後、みんな、三々五々部屋に戻っていく。私たちも少し会話をした後、自分にあてがわれた部屋へと帰っていった。

 そう。つまり私は智夏がいる女子の部屋じゃなく、男ばっかりの部屋に行かなければならないのだ。馬場くんになってからこっち、男子として生活はしてきたとはいえ、他の男子との共同生活なんて初めてのことだ。私は重い気分になりながら、けど逆に体験したことのないだけに、変に緊張しながら部屋の中に入った。

 何だ。集団生活のやり方って男子も女子もあんまり関係ないんだ。むしろ男子の方が要らない準備なんかがなくて、シンプルに旅行を楽しめるんじゃないだろうか。とはいえ、衛くん以外の男子の着替えなんかを見るのは初めてのことなので、ドキドキしてしまう。果たしてコレって役得なんだろうか、いやいや、うら若き乙女にそんなものを見せるのはやはり問題でしょ。

 みんなどうして着替えているのかというと、入浴する頃合だからだ。いくら修学旅行だからといって、集団で入るんじゃなく(大浴場といったってそんなに広くない)、ある程度の大きな時間枠の中で好きなタイミングで入っていいことになっている。

 部屋には七人いるのだけど、私は第一陣が帰ってきたタイミングで、他の仲間に誘われて入ることになった。と、その途中に数人の女子の集団とすれ違った。

 普段は決して見ることのない女子の浴衣姿に、他の男子生徒たちは色めき立つ。その中に私の知った顔があった。他ならぬ私自身――馬場くんの姿だった。

 髪をアップにまとめて浴衣を羽織った私の姿を見ると、私は不思議と色気を感じてしまっていた。私にそれを感じさせた原因の一つは、湯上りの馬場くんの顔が真っ赤に染まっていたことだ。

 馬場くんに向かって軽く会釈をした私は、他の男子と一緒に大浴場へと向かった。

 ――そういえば馬場くんって今は「私」なんだから、他の女子と一緒にお風呂に入ったりしたのよね。つまり、私以外の女子の裸もしっかりと見ちゃったりしたんだ・・・いくら女同士でも無防備になったりはしないかもしれないけど、服を脱いだり体を洗ったりするときにはどうしたって・・・私の心の中に何ともいえない感情が湧きあがってきた。

 ・・・それにしても男子同士のお風呂ってどうしてこうにぎやかなんだろ。女子の場合でも少しはテンションが上がったりはするけど、みんな自分のメンテナンスに集中しがちで、騒ぐってまでには至らなかった気がする。でも、男子は違う。広い浴槽に興奮したのか(岩風呂で下は危ないっていうのに!)、プロレスごっこを始める人もいるほどで。でも、そんな様子を見ているのは結構面白かったりする。

 ああ、これが男子なんだな。妙なことに感心しつつ、私は自然と衛くんの姿を探してしまっていた。見当たらないなあ、残念(ホントにそう思ってるのかどうかは分からないけど)。

 部屋に戻ると、すでに布団が敷かれており、何人かはすでにそこに潜り込んでいた。私も空いている布団を探して、そこに浴衣姿のまま潜り込んだ。

 そして男同士の馬鹿話が始まった。あの娘が気になるとか、誰が誰に目をつけているとか。中にはあの娘の胸でかいよなあ、なんて話もでてきた。けど、私はあの娘がパットを入れているのを知っていたりする。「あれはフェイクなんだよ」なんて爆弾発言が喉元まで出掛かったけど、ここは私の胸までに留めておこう。

 そんな中、私と衛くんの話題が持ち上がってきた。最近、二人が接近している、とみんなも感じているらしい。「ああ、あの娘、結構気になっていたのに!」なんて本気か冗談か分からないことを口にする男子もいたりして。当の本人である私も思わず照れてしまう。だったら告白でもしてくれよ!って思わなくもないけど。

 それはともかく、衛くんと同部屋である私にも話は当然振られる。私はここは熱弁を揮い、衛くんと「私」がうまく行っているように伝えた。まずは既成事実。周りから固めていかないとねえ。

 そうこうしているうちに、ひとり、またひとりと脱落して行き、気付いたときには私もどっぷりと眠りについてしまっていた。

――第十二話につづく


同居人(10) [TSF関連]

 時間は流れ、あっという間に中間試験のシーズンを迎えた。

 あれから衛くんと私な馬場くんの仲は少しずつ進展している。少なくとも世間的には恋人として認知はされているみたいだ。

 けれど、一方で相変わらず私とは情報交換をし続けているので、私と馬場くんが付き合っている、というデマも流れているのも事実だ。

 つまり、巷では神奈川芽衣未って女は、二股をかけている、ってことになってしまっているみたいだ。二股かどころか、実際には恋人の一人もゲットしていないというのに・・・

 それはそうと、私と馬場くんも元に戻る気配がない。けれど、不思議なことに、それが意外とほっとする事実なのに私は気付いていた。今の状況を楽しんでいるってわけじゃなく、元に戻ったときのことを考えると、ちょっと不安なのだ。衛くんといきなり付き合えっていわれたって、正直どうしたらいいのか分からない。ここは馬場くんにもうちょっとがんばってもらって、鉄のような絆を築いてもらわなければ。

 おっと、話が逸れてしまっているけど、当面の問題は中間試験だ。試験に向けて勉強しなければいけないのはいつもの話なのだけれど、問題は私と馬場くんが入れ替わっていることだ。

 簡単にいえば、私よりも馬場くんの方がかなり成績がよくって、私になった馬場くんは問題ないかもしれないけど、馬場くんになった私が今の実力で試験を受けると、馬場くんにとってかなり迷惑な事態になることが問題なのだ。もちろん、元に戻ればの話になるのだけど。

 とにかく、私の実力が大体200番台前半で、馬場くんの成績が50番辺り。馬場くんはああ見えてもかなりやる奴なのだ。ちなみに衛くんは80~100番ぐらいで、馬場くんには少し劣るとはいえ、私とは比較にならない成績だ。智夏は私よりもちょっといい程度なので(ただし、ごく一部の科目ではトップクラスを維持しているんだけど)、男性陣と女性陣ではかなり実力差があることになっちゃうのだ。

 このままでは馬場くんの成績が一気に下がって、受験やら何やらに支障をきたす恐れがある。私の方は暫定ではあっても成績が上がるのだから、オイシイ展開なんだけど、馬場くんにとってメリットは何一つない。ここでもまた私は馬場くんに迷惑をかけるわけだ。

 そんなわけで、私は一念発起して試験勉強に取り組み始めたわけだけど――慣れないことをしても、長くは続かないもんだ。今も全然教科書の内容が頭の中に入っていかない。勉強開始三日目にして、私は早くも音を上げようとしていた。

「このままじゃだめ。馬場くんに相談しよう」

 休み時間に、馬場くんを捕まえて事情を話してみた。馬場くんはあっけらかんと「成績なんか気にしなくていいって」なんていうけれど、そんなわけには行かないじゃない。私がちょっと涙目になりながら訴えかけると(いわゆる女の武器(!?)って奴だ)、馬場くんも不承不承ながら考え始めたみたいだ。

「よし、じゃあお互い帰宅部でもあるし、図書館にでも行って勉強するか?」

「あ、そ、それでいいよ。じゃあ、よろしくお願いしまーす」

 私がぺこりと頭を下げると、馬場くんは苦笑いしながら私に倣って頭を下げた。――おいおい、何だか見合いみたいだな・・・またみんなに誤解されちゃうじゃないか。

 それはともかく、放課後になると、私は馬場くんを連れ出し、図書館へと向かった。さすがにどこの学校も試験シーズンのようで、結構な人の入りだ。そっか、いつもはこいつらに差をつけられているわけだよね。よし、がんばって挽回しなければ。私は気合も新たに、馬場くんの手を引くようにして図書館へと足を踏み入れた。

「で、ここが・・・」

 馬場くんによる個人授業が始まった。まずは何といっても苦手な数学からだ。計算力がやや劣ることから、人の半分ほどの効率でしか問題を処理できず、それが高じて数学が嫌いになってきたってないきさつがあるのだけど、今はそうもいっていられない。

 けど、さすがに男子。馬場くんは数学は得意のようで、普段、衛くんに教えたりしているのか、指導もなかなか上手くて、私の頭の中にすっと入っていく。来週の試験までに覚えているかどうかの自信はまだないけど、今の時点ではバッチリ攻略できそうだ。

 けど、こうして見ると、真剣な顔をしている自分の顔を見ているのも妙な気分がするな。割と楽天家の私は、滅多にこんな顔をしないんで、なおさら違和感がある。やっぱ、女の子は笑っていた方がかわいく見えるよなあ。――とと、変なことを考えている場合じゃなかった。集中せんと。

「よし、じゃあ今日はここまでにしようか。明日もするんだろ?」

 私の集中力が切れてきたことに気付いたのか、馬場くんがそんな申し出をしてきた。時計を見ると、確かにそろそろ頃合いだ。それはそうと、こうやって次回の話を切り出すところを見ると、馬場くんは結構乗り気みたいだ。私としては話が持って行きやすい。

「え、ええ。馬場くんがいいんだったら。お願いしたいんだけど」

「うん。どの道、これは自分自身のためでもあるしね。結構教える方もいい勉強になるんだよ、これが」

 それはそうかもしれない。教える人は、教えられる人以上の知識がなければ難しいってのは分かるし。だけど、やっぱり迷惑をかけていることには変わりがない。よし、絶対結果を残さなくっちゃ。

「さ、帰ろうか」

「うんっ」

 二人で寮前まで帰ると、ちょうど智夏と鉢合わせた。馬場くんは私に軽く手を上げると、智夏のほうに走っていった。見ると、近付いてきた馬場くんに対して、智夏が何か耳打ちをしている。早速事情聴取をしているようだ。別に隠すようなことは何もないけど、智夏に勘違いされても困るかも。せっかく私と衛くんの仲が公然の事実になりつつあるこの頃なのに。

 智夏に手を引かれるようにして、二人は女子寮の中へ入っていってしまった。馬場くんが説明した内容に、智夏が納得しなかった、ってところか。やっぱり、こんな風にして男女が一緒に行動するってだけで「付き合っている」という風に見なされてしまうのはおかしい風潮なんだけどなあ。それだけ、私にしても馬場くんにしてもこれまでに浮いた噂がなさすぎたってことなのかもしれないけど。・・・寂しいねえ。

 寮へ帰ると、すでに衛くんは部活から帰ってきていた。制服姿で入ってきた私を見て、「おつ」と意外そうな表情を見せる。そしてそれをあっさりと口にしてしまうのがこの人のいいところでもあり、無遠慮なとこでもある。

「遅かったじゃないか。こんな時間までどこに行っていたんだ?」

 私は思わずドギマギしてしまっていた。夫婦じゃあるまいし、ルームメイトの私が何をしようとも勝手じゃないかと思うのだが。とはいえ、私にとっての衛くんはルームメイト以上の存在。馬場くんと二人きりでいたなんていうことはあまりいいたくはない。いや、私だけじゃなく、衛くんにとってもあまり耳に心地よい話じゃないに違いない。何せ、衛くんと「私」の二人は付き合いかけている、のだから。

 けど、ここは正直に話すしかない。私と馬場くんが一緒に試験勉強をしている、ただそれだけの話だ。それ以上でもそれ以下でもない。踏ん切りがついた私は、ゆっくりと、しかし動揺しながら話し始めた。

「――というわけなんだ。試験まであと三日しかないけど、やれることはやっておきたいっていうし」

「ふうん。そういえばおれも洋には何度か教えてもらったことはあるもんな。これが結構頭の中に入るんだ。お前って。教師の素質があるのかもよ」

「そ、そうかな?」

 それは知らなかった。そういわれてみれば、馬場くんは他の人よりも説明が上手いというか、相手の力量を見極めた上で、しっかりと教えてくれている感じがしていたのだ。もちろん、教師というのは不特定多数の生徒を教えるのだから、そんな手法は通用しないのかもしれない。そんな意味では彼は優秀な家庭教師といえた。これは今回の試験が楽しみってものだ。

「ま、しっかりと教えてやればいいよ。あまり人のことばっかやって、自分の成績を落とさないようにしろよな」

「う、うん。分かってる」

 ん?何か突き放したようなセリフ。ひょっとすると衛くんってば、私と馬場くんの関係に嫉妬してくれているのかも。んー、違うのかな?

 そんなこんなで試験当日を迎えた。緊張しながら配られてくる試験問題を受け取り、先生の合図で試験用紙を表に返して見る。

(お?これは昨日やったばかりの――やったね!)

 一時限目は化学の試験だったんだけど、不思議と、馬場くんが熱心に教えてくれた箇所ばかりが問題になっていた。いや、これはつまり、馬場くんが要点を掴むのが上手いっていうことだ。必要最小限の勉強で実力以上の結果を出せる、短期間で乗り切るのにはあれが最高の指導だったのだ。

 見事にはまった馬場くんの指導法に感動しながら、私は一つ目、二つ目の試験を終えていく。休み時間にそのこと話すと、馬場くんは柔和に笑い、「教えられる方が真剣だったからね」と返してきた。くー!生徒の喜ばせ方も心得てる。気分の乗ってきた私は、何の引っかかりも泣く初日の試験を終えた。

「ありがと。ホントに感謝してるよ。何で前からそうしなかったのかって思うくらい。あ、でも馬場くんにとっては勉強時間を割かれるんだよね・・・」

「だから問題ないって。どの道今回はあまりいい結果を出す必要がないしね」

「ああっ!それをいっちゃあおしまいよ。私だって別に成績を上げたくないってわけじゃないし。手を抜いてもらわなくたっていいんだからさ」

「ははは。冗談だよ。今のとこはいつもと変わらない感じだし。やっぱ、教えるだけでも頭に入っていくもんだよ。さあさあ、明日に備えてもう少しやるぞ」

「は~い」

 いつもと違って、完全に主導権を握られてしまっている。私は馬場くんに教えられるままに聞き、分からないことがあればこちらから聞き返しながら、一つ一つ問題をクリアしていった。その共同作業はどこか心地よく、おかげで好きではない勉強もかなりはかどったりした。いつもと違い、明日の試験が楽しみになる、そんな感覚を味わった私は、心から馬場くんに感謝していた。

「はい。そこまで」

「ふぃー!やっと終わったぜ」

「あー、私、ダメかも」

 全ての試験が終わり、悲喜こもごもの感想を漏らしている周囲のクラスメイト。私も万感の思いでこの瞬間を迎えていた。前方の馬場くんが軽くこちらを振り返ると、私は軽く笑みを返しながら親指を立てた手を差し出し、手応えのほどを彼に伝える。

 ああ、何か感謝の気持ちを形にしたい――そう思った私は馬場くんに放課後どこかに行かないか誘ってみた。

「どうかな・・・?」

「いや、二人とも試験で疲れてるだろ。そういうのは結果が出てからにしようぜ」

「え、あ、そ、そうね」

 断られるとは思わなかった私は、返す言葉もなく一人で帰る他なかった。そういえば衛くんの私を見る目も少し冷たくなってきているような気がしていたのだ。馬場くんもそんなものを感じ取って、私と距離を置こうとしたのかもしれない。うーん、ここ一週間ほど付きっきりだったもんなあ。少し間を空けるか。

 私は試験の手応えを噛み締めながら、しかし一人寂しく下校するのだった。


ただいま校正中 [TSF関連]

どうにか最後までこぎつけました。
現在、校正作業中です。
ちょっと加筆したら、あっさりと三万字を超えちゃいました(笑
もしかすると、この手の原稿の自己最高記録かもしれませんね。
バカなことしてるなあ、と思いつつ(笑


終わりが見えてきた。 [TSF関連]

今書いている話、ようやくラストが見えてきました。
何とか三万字以内で収まりそうです。
うーん、でも加筆はしないといけないかなあ・・・
するともうちょっと膨らんじゃうかもね。
二分割にでもしてもらうか(笑


さて。長くなってしまったぞ。 [TSF関連]

今書いている某イベント用の原稿ですが、
気が付けば20000字を超えてしまいました。
もう一つイベントを盛り込もうと考えていたので、
まだもう少しボリュームが増えそうです。
うーん、ちょっと予定外でしたね。
ペースが上がったと思ったら、水増しっぽい作品になりそうです(汗
一気に削らないといけないか・・・・考え中。


ちょっと調子に乗ってきた!? [TSF関連]

今、例のイベント用の話を書いています。
このところ、ペースが上がらなかったのですが、
ここしばらく、いい感じで書けてます。まださわりだけなんですけどね。
まあ、今月中には楽勝でしょう(笑
内容のほどは保障はしないですけど(爆


同居人(9) [TSF関連]

「お待たせ。待った?」

 前回と同じで馬場くんと智夏の方が遅れて到着した。男子が早く着くのが普通といえば普通なのだろうけど、私はホントは女の子なんだけどなあ。ま、いいか。

「いや、さっき着いたばっかりだよ。この間ので時間の感覚がよく分かったからな」

 衛くんが答える。何だか皮肉っぽく聞こえるけど、私の思い過ごしだろうか?待っている時には不満も何も口にしていなかったから、本気でいっているとも思えないけど、相手はあまりいい気はしないに違いない。

 つまり、今の彼にとって、私も智夏もあまり気を遣うに値しない女性ということなのか。これからもっとがんばらないと。

「さ、もう始まってるみたいだし、早速入ろっか」

 今回も智夏が仕切り始めた。私はちろっと智夏の方をにらむが、あやつはそ知らぬ顔で私たちを置いて中に入ろうとしていた。何か妙にやる気なんだよねえ、智夏の奴。馬場くんにもっとがんばってもらわなきゃいけないな。よし――

(馬場くん。きょうはもっと積極的に行ってよね。智夏に負けてちゃダメだよ)

 私は馬場くんににじり寄り、小声でハッパをかけた。馬場くんも私ににこっと笑いかけてくる。

(あ、ああ。分かってる。できる限りの努力はするよ)

 お?それなりにやる気はあるみたい。けど、それを行動に表してくれないと結果は伴わないじゃない。頼むよ、洋くん。私の将来は君の両肩にかかってるんだからね!

(うわ・・・これが男子更衣室か。うへ、みんな当たり前のように脱いじゃってる)

 衛くんと一緒に着替えるというのもアレだけど、周りが男ばっかというのも変な気持ちになってくる。一応、体育の授業で体験はしているけど、水着の場合はどうしたって裸まで行くからねえ。

(そっか、今頃馬場くんは逆の立場なのよね・・・変なことになってなきゃいいけど)

 馬場くんも女子更衣室は体験済みだろうけど、完全に裸になるとなると全然違うはず。彼の性格からして、その状況を役得だなんて考えてじろじろと見るなんてことは思えないけど、どっちにしたって馬場くんの取る行動は「私」の行動として世間に認知されるんだから。ま、智夏以外には知り合いがいないのであれば、全然問題ないけどさ。

「おい、何してるんだ?早く着替えろよ」

 いつの間にか着替えを終えていた衛くんが私を急かす。ありゃ、決定的瞬間を見逃しちゃったか、ちっと残念な気もする。ま、冗談だけどね。――よし、さっさと着替えるか。それにしても男の着替えは楽だ。ものの十秒ほどで事が済んでしまう。女だったらあれを外して、これを穿いて、これを着けて、なんて段取りを数回しなきゃいけないのに。実にシンプルだ。何だかうらやましいよ。

 早速プールサイドへ出た私たち。当然のことながら、智夏たちはまだ姿を見せていない。今年最後とあって、かなりの混雑の様相を呈している。これでは座る場所など確保できそうもない。仕方なく立ったまま待つことにする。

 それにしても強い日差しだ。九月に入ったというのに、一向に涼しくなる気配がない。私が子供の頃はもう少しましだったと思うんだけど――と、おばさんみたいなセリフだな、こりゃ。と、どうやら智夏と馬場くんが現れたようだ。って、おいおい。

「お待たせ!」

 片手をあげながらこちらに歩み寄ってくる智夏。それは別にいいのだけど、その後ろについてきている人物が問題だ。私が指示した通りのオレンジのセパレートの水着を着ているのは合格だ。問題は下半身の、いやハッキリいっちゃうと股間の部分だ。そこがしっかりとケアされているかどうか。まだここからじゃよく見えない。私は目を皿のようにして、自分自身のものだった股ぐらをじっと見つめた。

 さすがに馬場くんの体の視力は大したもので、すぐにそこの是非を確認することができた。うん、合格だ。念を押しておくのを忘れたので、いささか心配だったのだ。まずは一安心と。ほっとしたのも束の間――

「何?どこ見てんのよ馬場くん。目が血走ってるわよ」

 鋭い智夏の突っ込み。そ、そっか、傍から見れば私の股間に目が行っている馬場くんの図でしかないんだ。うわっちゃ、馬場くん、ゴメン。点数下げちゃった。

「い、いや、何でもない。水着姿があまりにもきれいだったんで」

 何だかすげえ恥ずかしいことをいってる。こんな歯の浮くようなセリフを吐くこと自体鳥肌モンだし、何よりきれいだなんてことを当の本人がいっているという辺りが・・・いかん、顔がかあっとしてきた、きっと真っ赤になっちゃってるに違いない。

「よし、じゃあ早速入ろうか。いつまでも突っ立ってると、日射病になっちまうよ」

 私の狼狽なんかどこ吹く風の衛くんが(いや、もしかしたら助け舟を出してくれたのかもしれない)、先に立ってプールへと入っていった。鍛えられた衛くんの体は、こうして裸に近い格好になると際立ってくる。馬場くんの体もそれなりに絞れてはいるのだけど、スポーツマンのそれとは全然違う。私はその引き締まったお尻に見惚れながら、後に続いていった。

「ちょっと付き合ってくれないか?」

 お先に、とばかりにプールへ飛び込んでいった衛くんを見てから、私は智夏に声を掛けた。前回のこともあり、衛くんに積極的には行かないように考えているようで、智夏も私の提案に乗ってくれた。これで私と智夏、そして馬場くんと衛くんの二組ができることになる。

 これは実際の肉体の能力面からしても均衡が取れている組み合わせなのだ。元々運動部員だった私は、水泳は苦手ではなかったし、もちろん運動は何でもこなす衛くんにもある程度ついていけるだろう。そしてもちろん、新聞部である智夏と帰宅部である馬場くん(の体)という組み合わせもはまっていた。とにかく、これでセッティングはできあがった。あとは馬場くんにがんばってもらうだけだ。衛くんを追いかけていく私のお尻を目で追いながら、私は馬場くんにエールを送っていた。

「――へえ、そうなんだ」

 プールにも入らずに、しばし智夏と歓談する。まるでこっちがデートをしているみたいだけど、それはそれ。きっちり情報を収集しておかなければいけない。何といっても気になるのは馬場くんが私の体で変なことをしていないかどうかだ。

 しかし、智夏と会話するうちに、その心配は杞憂へと変わった。少なくとも智夏の見る限りにおいては、馬場くんは気になるような行動もしていないし、それらしい気配も感じ取れないということだった。つまり、いいかえれば、馬場くんの演技が智夏に異変を悟らせないほどのちゃんとしているということも意味していた。

 入れ替わった初日、確かに馬場くんはできる限りの努力をするといってくれた。けど、私は全然彼のいうことが信じられなかったものだ。けど、結果としては彼はちゃんと実行してくれていた。私はそんな馬場くんの意志の強さと優しさに、彼の新たな一面を発見したような気がして、少し感動を覚えていた。

「あれ?芽衣未だけが帰ってきたよ?どうしたんだろ?」

 智夏の見てる方向を見ると、確かに馬場くんがプールサイドへ近付いてきた。近くに衛くんの姿はない。一体なんだろ、そう思っていると、馬場くんがこちらへ向かって手招きしてきた。いや、こちらというよりは私、ということらしい。私は立ち上がって、馬場くんの近くまで近付いていった。

(どうしたの?衛くんは?)

(向こうにいるよ。ちょっと聞きたいことがあってさ――)

 馬場くんが聞いてきたのは私の中学時代の部活のこと。現在の私の周辺の情報については教えてあったけど、確かに中学時代の話はあまり馬場くんには伝えてない。私は馬場くんからの問いに対して、ひとつひとつ答えていった。そんな私たちに対して――

「ねえ、どうして芽衣未はあなたに色々聞きに来るのよ?」

 馬場くんが再び衛くんの元へ帰って行った後、怪訝な顔をしていた智夏が口を開いた。

「え?そ、それは――」

 さすがに智夏も怪しいと感じたのか、鋭い問いを発してきた。ん?今の立場であればどうしたってこうならなきゃしょうがないじゃない、なんてこともいえるはずもなく、私は言葉に詰まって――ん?

「そりゃ、オレは衛と同じメシを食ってる仲だからね。色々と情報提供はしてやらないといけないだろ?」

 私の理の通った言い訳――実際には衛くんじゃなく、私の情報を彼に伝えているんだけど――に、智夏も納得の表情を見せた。

「ああ、なるほど。そういわれてみればそうかも。でも、あんまり近付きすぎない方がいいと思うな。周りから二人ができちゃったみたいに思われちゃうから」

 それもそうか。私は智夏の言葉に大きくうなずいた。でも、アドリブで誤魔化せるほど私も馬場くんもお互いの情報に精通しているわけじゃないもの。ふうむ、よくよく考えてみれば、私のことを衛くんはそんなに知ってるはずがないんだ。今の馬場くんでも、テキトーに動いていれば誤魔化せるかもしれない――あ、ダメだ。それだと、元に戻ったときに私が困っちゃうもの。彼が持ってる間違ったイメージが定着しちゃったら、元に戻った私を受け入れてくれないかも。やっぱりある程度はきっちりした情報を伝えておかないと。

 しばらくすると、せっかくプールに来たのだからと、私と智夏も泳ぐことにした。智夏にしてみれば、さっきの助言の通りに、私と馬場くんの接点をなくしにかかったのかもしれない。現に、こうして人ごみに紛れてしまえば、私も馬場くんの姿が確認できない。ここは馬場くんにがんばってもらうしかない。

「それにしても」

「ん?」

「これじゃあ私たちもできてるみたいじゃない」

「ははは」

 苦笑するしかない。男女が一緒にいれば、イコール恋人だなんて誰が決めたんだ?兄妹かもしれないし、ただの友達ってこともある。第一、今の私は外見上は馬場くんという男子だけど、中身は神奈川芽衣未というれっきとした女の子なんだから。あ、それは衛くんと馬場くんにしても同じか。あの二人が付き合うことになったとして、果たして馬場くんはどんな気分になるのだろうか。私の心の中に、馬場くんへの申し訳なさがこみあげてきた。

 その後も何度か馬場くんは私の元へと訪れ、何かしら情報を仕入れていった。智夏ももうそれに対しては口を挟まなかったけど、何となく不満そうな表情が窺えた。一体何だってんでしょ?あの娘、ひょっとして馬場くんに気があるんじゃなかろうか。それだったら今の状況はかなり都合のいい――もちろん智夏にとってだけど――状況に違いない。

 つつがなくプールデートも終わり、帰宅の途についた私たち。例のごとく寮まで一緒に帰っている。そういえば、帰りはこうなのに、どうして現地集合なんだろ?いや、でもデートっぽい緊張感を出すにはこれがいいんだろうな。

 前で仲良さげに話している馬場くんと衛くんの背中を見ながら、私と智夏は歩いていた。どうやら上手く行ったみたい。そう思ったものの、どこか寂しい気分にさせられるのはどうしてだろ?ふと横を見ると、智夏も似たような寂しげな顔をしている。私がそれを指摘すると、智夏はふっと笑って私の疑問を解消してくれた。

「いや、ね。もう私たちの出番は終わったんだろうなって思ってさ。私たちがお膳立てしなくってもあの二人はやっていけるだろうなって思ったら、ちょっと寂しくなってきてさ」

 そっか。確かに私たちが一緒に付き合っていたのはあくまでも二人をサポートするためであって、もっといえば腰の重い衛くんを動かすための口実みたいな面もあったんだ。それが二人が正式に付き合う展開になると、私たちの出る幕じゃない。もう私たちはお邪魔虫に過ぎなくなるからだ。

 別れ際、私と馬場くんが組になる場面があり、私は今日の成果を聞いた。やはり、かなりの前進を見せたらしい。ああいう組み合わせに私たちがしたことで、衛くんも察するところがあったらしい。彼も前向きに考えてくれているようだ。へへ、やったね。

「色々と気を使わせちゃってゴメンね。ホントは私がしなくちゃいけないことなのに、こんなことになったばっかりに・・・」

 私が今日の間中思っていたことを馬場くんに伝える。本当に馬場くんにはお世話になりっぱなしだ。どう考えたって本意じゃないことをさせているにもかかわらず、馬場くんは怒りもせずに付き合ってくれている。本当にいい奴だ。

「気にすんなよ。オレは衛の扱いには慣れてるしさ」

 にっこりしながらそう軽口を叩く『私』。あ、何だろ、胸が苦しくなるような――こいつ、滅茶苦茶いい奴だ。ちょっと泣けてきちゃった。

「何だよメソメソすんなよ。オレが女々しいと思われるじゃないか」

「だ、だって・・・」

 私はぐっと歯を食いしばって涙を押しとどめた。すると、意外なほどにあっさりと涙は止まってしまう。やっぱり、男子の体ってのは女子と何かが違う。それとも私の体が元々涙腺がゆるいのだろうか?けど、私な馬場くんが泣いているのを見た記憶はないし・・・ま、この場は都合がいいからいいや。

 何はともあれ、これで私と衛くんが付き合い始める下地はできたみたい。そうなると問題はいつ元に戻るのかということ。って、本当に元に戻るのかな?急に不安になってくる私だった。


お嬢様チェンジ! 乙女寮は大混乱 [TSF関連]

ODですが、ご紹介しておきましょう。
二次元ドリーム文庫から先月に発売された小説ですが、
ある術法により女子寮の女生徒達が集団入れ替わりします。
元々兄に秘めたる思いがあった桃花が、
巫女の衣乃里の肉体を利用して兄である主人公に迫ります。
その前に桃花の思いを知った衣乃里によって、
桃花は兄に思いを知られてしまいます。
そしてアナルセックス(笑
母乳あり、アナルあり、3Pありとかなりはーどな内容になっております。
ちょっと探索的なシーンがなかったんで、ODとしても残念かなあと。
探索さえあればODでも結構満足できるんですけどねえ、肉転みたいに。


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